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平昌冬季五輪 視聴率 視聴率低迷 2400時間 ライブ中継 NBC NBCSN NBCOlympics.com NBC Sports app

2018年03月04日 18時33分26秒 | 平昌冬季五輪

視聴率低下に歯止めがかからなかったNBCの平昌冬季五輪中継



“薄氷”の上に立たされたNBC
 南北朝鮮の融和、美女応援団、日本選手団の活躍、5G、VR、4K/8Kなど“ICT五輪”で話題を呼んだ平昌冬季五輪は、17日間の会期を終え、2月25日、閉幕した。
 日本国内の五輪放送は、フィギアスケートの羽生選手やスピードスケートの小平選手やパシュートやマススタートで金メダルをとったり、カーリング、スキージャンプ、スノーボードなどでメダルを取ったりして、冬期五輪では史上最多の13個のメダル獲得したことで、五輪人気が沸騰して、NHKや民放の五輪中継番組の視聴率は極めて好調だった。
しかし、米国内の独占放送権を持つNBCの視聴率は、2012ソチ冬季五輪に比べて、さらに下がって、視聴者の五輪離れに歯止めをかけられず、NBCは薄氷の上に立たされている。
 NBCは五輪の放送権料の約40%を負担しているIOC(国際オリンピック委員会)を支える“屋台骨”である。NBCは、約120億ドル(約1兆3200億円)という膨大な金額を支払い2032年までの長期に渡る放送権を取得している。
 五輪大会を維持するためには、世界各国の50億人にも上る視聴者に五輪映像を届けているテレビの影響力は欠かせない。また財政面でもテレビの放送権収入に頼らざるを得ない。IOCの収入の70%以上は、実は放送権料なのである。
 その中でも、NBCは五輪大会の存立をも左右する“生命線”なのである。


出典 POCOG PyeongChang2018


出典 IOC PyeongChang2018

テレビにとって“五輪神話”は崩壊したのか
 テレビにとって、スポーツ中継コンテンツの価値は不変だという神話がある。
 若者の“テレビ離れ”が進む中でも、この神話は生き続けるとされている。
 2012ロンドン夏季五輪では、ほとんどの視聴者は、競技の結果をソーシャルメディアで知っていたにも拘わらず、米国では3110万人もの視聴者が午後8時から11時までのプライムタイム時間帯で競技中継をテレビで見たのである。この時は、ライブ中継ではなく録画時差再生放送だった。五輪ブランドの魔力は絶大だった。
 しかし、この2年間、テレビのキラーコンテンツとされていたスポーツ中継でさえ、“テレビ離れ”の嵐にさらされ始めた。最初にNFL(National Football League)の視聴率が下がった。そして今、夏季五輪と冬季五輪が視聴率低下に襲われている。



視聴率低下に歯止めがかからないNBCの五輪中継
 NBCは、平昌冬季五輪のプライムタイムの視聴者数は、NBCとNBCSN(NBC Sports Network:ケーブルテレビのスポーツ専門チャンネル)などのケーブルテレビ、デジタル・サービスのプラットフォームを合わせて、平均で1980万人になったことを明らかにした。2014ソチ冬季五輪の視聴者数、2130万人と比較すると7%減少した。
 これまでの五輪大会の平均視聴者数で見ると、米国内で開催された2002ソルトレークシティ冬期五輪では、冬季五輪では最高の3190万人を記録している。
 また1998長野冬季五輪では2530万人(CBSが放送)、2010バンクバー冬期五輪では2440万人、2006トリノ冬期五輪では2020万人だった。
平昌冬季五輪は1998以来の冬季五輪で最低の視聴者数を記録したのである。

空前の2400時間の五輪番組に挑んだNBCグループ

 NBCユニバーサルは、傘下にテレビ・ネットワークのNBC、ケーブル・チャンネルのNBCSN(NBC Sport Network)やCNBC、USA NETWORK、デジタル・サービスのNBCOlympics.com and the NBC Sports appを抱えるNBCグループの親会社である。
平昌冬季五輪では、NBCユニバーサルはグループのテレビ・ネットワークやケーブルテレビ、デジタル・プラットフォームを総動員して、冬季五輪では史上最高の合計2400時間の五輪競技映像を視聴者にサービスする。

 さらに注目されるのは、NBCは、平昌冬季五輪で、徹底したライブ中継を重視する作戦に出たことである。
これまでは、海外で開催される五輪大会では、開催地と米国東部時間との時差を考慮して、録画時差再生放送を行ってきたが、毎回、視聴者からは、強い反発を招いていた。
 その方針を平昌冬季五輪では大転換し、初めてNBCやケーブルテレビのプライムタイムで初めてライブ中継放送に挑んだ。
平昌冬季五輪は、海外で開催される五輪大会では、最も“ライブ感”にあふれた五輪放送となった。

テレビ、ケーブル、デジタル・サービスを総動員したNBCグループ
 NBCは大会期間中の18日間連続して、初めて、毎日夜8時(または7時30分)から11時過ぎまでのプライムタイム帯に平昌冬季五輪のライブ中継番組を放送した。
 フィギアスケート、スピードスケート、ショートトラック、アルペン、フリースキー、スノーボード、スキージャンプ、ボブスレー、スケルトン、ルージュの競技がライブ中継で視聴者に提供された。但し開会式と閉会式については、従来通り録画再生時差放送とした。そして午後の時間帯や深夜時間帯には競技中継の再放送を行うことで、総放送時間は176時間に及ぶ。
 NBCユニバーサルのスポーツ専門チャンネル、NBCSN(NBC Sports Network)は、史上最高の368.5時間の五輪映像を放送し、その内、10日間はライブ中継を中心に24時間放送を実施する。
NBCSNでは、NBCと競合するプライムタイムでも、ライブ中継を始めて行った。
 経済ニュースチャンネルのCNBCは、46時間の放送を行い、人気のあるカーリング競技のハイライトをサービスする。
 エンタテインメント・チェンネルのUSA Networkは、カーリングとホッケーなど、合計40.5時間の生中継を放送する。
 NBCユニバーサル傘下の地上波やケーブルを合計した放送時間は631時間で、2014年ソチ冬期五輪の541時間を大きく上回った
 デジタル・サービスでは、NBCOlympics.com や NBC Sports appが、ケーブルテレビで放送するすべての番組のサイマル・ライブ・ストリーミングを中心に、放送しない競技も含めてすべての五輪競技を始めてサービスする。さらにオインラインのオリジナル・コンテンツを毎日2時間程度加えて、合計1800時間のサービスを行う。
ソチ冬期五輪のインターネット・サービスは1000時間、平昌冬季五輪の対応は、ソチ冬季五輪を大幅に上回り史上最高となる。

競技開始時間は午前中に設定
 このNBCの“ライブ戦略”の下で、平昌冬季五輪の競技開始時間は、米国との時差(東海岸で14時間)を考慮した時間に設定された。
 米国内で人気のあるフィギアスケートは、午前10時開始、午後2時終了で、ニューヨークのプライムに合わせて競技スケジュールが設定されている。カーリングも午前10時開始で、午前に行われる競技が急増した。しかし、午前中の競技開始は、選手のコンディション調整の負担が大きく、他の大会では行われない異例の対応だ。
ちなみに、ジャンプ競技は、ヨーロッパの時間に合わせて夜10時過ぎからに競技時間が設定され、暗闇の夜空をバックに選手がジャンプすることになった。

開会式で躓いた視聴率
 平昌冬季五輪の開会式は、2月9日の夜8時から、平昌のオリンピック・スタジアムで行われたが、NBCでは開会式の中継録画を、プライムタイムの夜8時から11時02分の約2時間に渡って、再生時差放送で行った。
 NBCは、1992年以来、開会式と閉会式は録画時差再生で放送している。
 ニールセンの調査によると、開会式中継の世帯別視聴率は16.9%、出足から低迷し、五輪放送の視聴率低下に歯止めをかけることはできなかった。
2014ソチ冬季五輪の開会式の視聴率は18.5%で、今回の開会式はソチ冬季五輪に比べて8.6%も下落した。
開会式の中継は、1992以来、録画時差再生で行われているが、平昌冬季五輪は1994リリハンメル冬期五輪の3380万人、2014ソチ冬季五輪の3170万人に次いで、第3位を占めた
 また視聴占拠率は、平昌冬季五輪で29%、ソチ冬季五輪で30%とほぼ同じで、競争相手のテレビ局に圧勝し、五輪コンテンツの威力は健在だった。
 ちなみに2016リオデジャネイロ夏季五輪の開会式の視聴率は、16.5%を記録した。夏季五輪では1992年以来最低の視聴者だった。
しかし、米国のメディア専門家の中には、平昌冬季五輪の開会式の視聴率は、テレビ局間の激しい視聴率競争や急激に進行しているテレビ離れの中では、健闘したとする見方も出ている。
NBCの会長、マーク・ラザス氏は、「開会式はすばらしいショーだった。17日間に渡って繰り広げられる競技への興奮を巻き起こすのに最適の演出だ。 開会式の中継の結果は、当社の多様な複数プラットフォームで展開しているメディア戦略の正しさを示したものだ」と胸を張った。

NBCは独自に視聴者数を算出
 NBCでは、ニールセンの視聴率調査とは別に、Total Audience Delivery (TAD)という独自の手法を用い、NBCグループのテレビ放送のNBC、ケーブルテレビのNBCSN(NBC Sport Network)とNBCOlympics.com and the NBC Sports appのデジタル・サービスを合わせて、五輪コンテンツを全米で何人が見たかを推定し、その視聴者総数(放送時間帯の平均値)を公表している。
 TADの基礎になるデータはNielsenによるテレビ視聴率調査とAdobe Analyticsのデジタル・データである。
Total Audience Delivery (TAD)によると、平昌冬季五輪の開会式の視聴者数は2830万人、2014ソチ冬季五輪の3170万人に比べて、今回は約11%も下落した。
 この内、テレビでNBCとNBCSNを見た人は2780万人、一方、NBCOlympics.com and the NBC Sports appのデジタル・サービスをスマートフォンやタブレット、スマートテレビなどで見た視聴者は、44万9000人(average minute audience)だった算出している。
 NBCによると、2016リオデジャネイロ夏季五輪の開会式のデジタル・サービスの視聴者数は、18万1000万人で、今回は約2倍に急増しているという。
ちなみにソチ冬季五輪では、ライブ・ストリーミングは実施していなかった。
 テレビ放送の視聴率が低迷し、デジタル・サービスは急成長している中で、NBCはデジタル・サービスの視聴者数を可能な限り算定して、五輪の“視聴率”として反映させ、マルチプラットフォーム時代の“視聴率”として定着させる戦略だ。
 視聴者数減少のダメージを避けようとするNBCの目論見が秘められている。

空前のデジタル・サービスに挑んだNBC
 テレビの視聴率はソチ冬季五輪から8%も下落したが、デジタル・サービスは快進撃を続けている。
 NBCによると、平昌冬季五輪のライブ・ストリーミング・サービスのユニーク・ビューは、1390万人で、2012ソチ冬季五輪の630万人に比べて倍増したとしている。
 デジタル映像サービスが行われたプラットフォームは、NBC Olympics.comとNBC Sports app、NBC SPORTS SCORES appやSnapchat, Uberで、デスクトップ、スマートフォン、タブレット、スマートテレビに向けて、合計1800時間という空前のストリーミング・サービスを行われた。ソチ冬季五輪の1000時間の約2倍に激増した。
 そのサービスのほとんどがライブ・スリーミングで行うという徹底した“ライブ戦略”だった。
ちなみに2014ソチ冬季五輪では、ライブ・ストリーミングは、NBCの録画時差再生放送への影響を懸念して、実施していない。配信された五輪コンテンツは、NBCやNBCSN、CNBC、USA NETWORのケーブルテレビで放送されるライブ中継のサイマル・ストリーミングを始め、テレビでは放送しない競技も加え、初めて五輪大会の全競技のライブ・ストリーミング配信に挑んだ。また、スマートテレビへのサービスも初めておこなった。
 NBC SPORTS SCORES appは競技結果を中心に配信し、若者人気のあるSnapchatは、競技のライブ・クリップを、Uberは競技ハイライトがサービスされた。
 NBC Olympics.comとNBC Sports appでは、オンデマンド・サービス(VOD)のライブラリーも設けられ、競技のハイライトや中継のリプレイを始め、テレビでは伝えない選手の表情やプロフィール、トピックスなどのサービスもおこなう。
 アルペン競技やフィギアスケートなどの主要な競技では、“Behind-the-scenes conten”と名付け、アルペンスキーにではスタート・ゲートの中の選手やスタート直前の選手の表情、フィギアスケートでは練習場の選手や得点を待つ選手の表情などを、ライブ中継の画面の隅に小さなウインドーを設け提供する。
 “The fact cards”では、選手の顔の似顔絵や経歴を提供する。
 “Team USA tracker”では、次に登場するUSAの選手のプロフィールを提供するUSAの選手の応援サイトである。
 この他、“Olympic trivia”(五輪あれこれ雑学情報)、競技の順位や記録などがサービスされる。
 毎日2時間規模のデジタル配信の独自コンテンツも制作し、人気競技を中心に、その日の競技のハイライトや五輪関連トピックスで構成した“Gold Zone”や “Olympic Ice”、 “Off the Post.”の3つのコンテンツをすべてのタイムゾーンでサービスする。
 こうしたオペレーションを行うために、NBC Sports appでは、約300人の専従スタッフを配置した。
 また、こうしたデジタル・コンテンツの配信はNBC Sports’ Playmaker Mediaが一元的に管理した。

 2月18日日曜日、NBCOlympics.comとNBC Sports app では、ユーザーのストリーミング・ダウンロード総時間数は、ソチ冬期五輪の4億2000万分の約3倍にあたる13億1000万分という驚異的な数字を記録した。さらに、同じ日のユニーク・ビューは、1,160万人を記録し、ソチ冬期五輪に比べて174%増となった。


NBC Sports AppのHP

デジタル・サービスが好調な原因は何か
 デジタル視聴者がこの4年間で激増した要因は何だろうか。
 インターネットに接続して、デジタル映像サービスを視聴できるスマートテレビの登場であろう。
Netflix、Fulu、Apple TV、Amazon TV、YouTubeなどのデジタル映像サービス(OTTサービス)がテレビの画面で見ることができるようになった。Rokuやアマゾンの「Fire TV」、グーグルの「Chromecast」、アップルの「Apple TV」などのセットボックスやデバイスがこの4年間で全米の家庭に急速に普及し、視聴者は自宅のテレビ画面で、テレビ見るように、デジタル映像サービスを楽しめるようになった。
平昌冬季五輪では、スマートテレビに、初めて五輪競技のライブ中継をサービスした。
 勿論、スマートフォンやタブレットなどの携帯端末で、平昌冬季五輪のライブ中継を楽しむ視聴者も飛躍的に増えたが、視聴時間は、スマートテレビに比べて圧倒的に短いという。
 米国ではオンライン・ライブストリーミングの視聴者は、約40パーセントがインターネットに接続したテレビ(スマートテレビ)で視聴されているとされている。
 NBCは、平昌冬季五輪のライブ中継戦略で、テレビ放送、ケーブルテレビ、衛星放送、スマートテレビ、ラップトップ、スマートフォン、タブレットなどあらゆるプラットフォームを総動員した本格的なマルチ・メディア展開を実現させた。

 しかし、NBCグループのデジタル・プラットフォーム・サービスは、視聴者の誰もが楽しむことができるわけではない。
 このサービスを視聴するためには、ケーブルテレビや衛星放送、IPTVなどのPay-TV加入者番号を入力する必要がある。番号入力のいらない30分の「お試し無料視聴」も設けて、Pay-TVの契約に誘導しようという戦略なのである。
 これに対して、日本国内で行われているNHKの五輪インターネット・サービスや民放のGorin.jpは、誰でもがアクセスできるオープンなサービスである。
 NBCOlympics.com や NBC Sports appのサービスはNBCグループのメディア・ビジネス戦略の一環なのである。

ソーシャルメディアとの連携に積極的に動いたNBC
 平昌冬季五輪では、NBCはSocial mediaとの連携を積極的に展開した。
 NBCはBuzzfeedやSnapchatに、若者向けの五輪関連のショート番組を制作・提供したり、Facebookではさまざまな動画コンテンツを流したり、TwitterやYouTubeに投稿したりするとしている。
 リオデジャネイロ五輪では「#Rio2016」というハッシュタグのツイートが1億8700万もあり、合計で750億回も読まれ、Facebookでのインタラクション数は15億回に達し、NBCのリオ五輪の特設ページだけでも6億回を超える動画の視聴があった。Snapchatでは3,500万人が22億個のスナップを閲覧したという。
 平昌冬季五輪では、こうした数字が大幅に増加すると予想されている。五輪大会がネット上で話題になって、NBCネットワークやPay TVの視聴者増に跳ね返り、視聴契約収入や広告収入に結びつけたいというのがNBCユニバーサルの戦略だろう。
 NBCスポーツ・グループの責任者は「メディアの状況は変化している。視聴者はあらゆる種類のデバイスで競技を楽しみたいと考えている」と語っている。

それでも止まらない視聴率低下
 2月16日、五輪大会で最初の週末の金曜日、NBCとNBC Sport Networkの視聴率は8%も下がった。
平昌冬季五輪での二つのネットワークのプライムタイムの視聴者は2190万人で、2014ソチ冬期五輪の2370万人に比べて、180万人減少した。
スポンサーが最も注目しているのは、18歳から49歳の年齢層の視聴率だが、平昌冬季五輪ではソチ五輪に比べて、24%の下落と衝撃的な数字を記録した。NBCとNBCSNを合わせた視聴率でも17%の下落となっている。

 2月18日の日曜日のプライムタイムの視聴率は12.0%、視聴者数は2130万人で、2014ソチ冬季五輪から7%減と大幅に下落した。12.0%という視聴率は、1992年以来のすべての五輪放送の視聴率で最低を記録したという。
 ちなみに、NBCだけの視聴率は9.1%で視聴者数は1630万人で、ソチ冬季五輪と比較して25%も下落したという。
 アルペンスキー・滑降でリンゼイ・ボン(Lindsey Vonn)が銅メダル、ミカエラ・シフリンが銀メダルをとって米国中が沸いた2月21日(水曜日)に、NBCとNBCSNがプライムタイムで放送したライブ中継を見た視聴者数は1640万人で、五輪放送の中でワースト2位の記録で、ソチ冬期五輪の同じ日と比べて19%も下落した。NBCだけの視聴者と比較すると30%も下落し、散々な結果に終わった。
 視聴率の下落は、開会式以後も続いたのである。

視聴率低下の要因は、“五輪離れ”でなく“テレビ離れ”
 平昌冬季五輪の視聴者数がソチ五輪より減少した原因について、メディアの専門家は、構造的なテレビ離れが大きな原因で、五輪放送に問題が起きているわけではないとしている。
 むしろ、この4年間の間に起きたテレビを巡る環境変化を考慮すると、平昌冬季五輪放送は「大健闘」したと評価できるとしている。
デジタル・サービスはストリーミングを強化して、放送と同じようにライブで競技を視聴することができるし、ソーシャルメディアは競技結果やメダリストの情報をいつでも入手することができる。五輪中継の視聴者は、テレビの前に、長時間、じっと座って競技結果を待つ必要はなくなったのである。若年層を中心に、テレビは見ないで、デジタル・サービスやソーシャルメディアで五輪コンテンツに接する人が急増しているのが、“テレビ離れ”の要因だろう。
 しかし、デジタル・サービスを評価するのが難しいのは、テレビの視聴者数のように、どれだけ利用されているか、よくわからないことである。
NBCにとって、最大の課題は、デジタル・サービスで、スポンサーを新たに獲得して、収入増に結び付けることだろう。
 リオデジャネイロ五輪では、約12億ドルのスポンサー料の約10%が、デジタル・メディアからの収入だったといわれている。
 平昌冬季五輪で行われた空前の規模のデジタル・サービスで、NBCは、どの程度収入増に結びついたのかが注目される。

五輪の威力はいまだに健在
それでも、五輪のコンテンツの威力は、まだまだ健在である。
NBCの平昌冬季五輪放送は、二週間に渡ってその日の最高視聴率を手に入れ、競争相手のCBS、ABC、FOXに圧勝した。NBC単独の視聴者数でも、プライムタイムで1日平均で1780万人を獲得し、CBS、ABC、FOX の3局を合計した視聴者数を83%も上回って圧倒した。
2月17日の日曜日のプライムタイムでは、NBC とNBCSNは1800万人の視聴者を獲得したのに対し、競争相手のABC、CBS、FOXは、合計でわずか990万人に留まり、NBCの独断場だった。
 NBCのMark Lazarus氏は「今日のテレビを取り巻く環境では、18日間連続で、プライムタイムで2000万人を越える視聴者を獲得できたことは大成功だ」と語った。
 NBCSNも、ライブ中継を中心にして10日間の24時間連続放送を行い、これまでで最高のペースで月間視聴者数を得ている。2月26日には、1日で76万8000人の視聴者数を記録した。
 NBCグループの五輪サービス、ケーブルテレビとデジタル・サービス時間を大幅に増やすことで、全体のサービス時間を、2600時間に、ソチ冬季五輪に比べて倍増させた。その結果、全体の視聴者数を約11%近くかさ上げしたという。
五輪中継は、まだまだ全米では他に類を見ないキラーコンテンツなのである。
やはり視聴者の減少は、“五輪離れ”ではなく、“テレビ離れ”の進行というテレビというメディアを巡る構造的問題なのである。
それだけに、その解決策を見出すのは難しい。

好調なスポンサー収入
 視聴者数が減少しているにも拘わらず、NBCの五輪放送に関わる収入は好調だ。
 平昌冬季五輪では、すでに9億2000万ドル(約1120億円)の広告料を得ることに成功している。
2014ソチ冬季五輪の8億ドル(約880億円)を1億ドル以上、上回っている。
 NBCは、全米の他のネットワークと同様に、こうしたスポンサー料とケーブルテレビやローカル放送局への再送信料が収入源である。
 再送信料収入は、基本的に安定した収入だが、スポンサー料収入は、環境によって大きく変動する不安定な収入なので、スポンサー料収入の好不調が、NBC収益を大きく左右する。
ちなみにNBCが支払った平昌冬季五輪の放送権は11億ドル(約1210億円)と推定されている。

 過去の3大会のNBCの収支は黒字だった。リオデジャネイロ夏季五輪は史上最高の2億5000万ドル(約275億円)の黒字を達成した。平昌冬季五輪でもNBCは再び巨額の黒字達成を目論んでいる。 視聴率は低迷しても、なお“五輪神話”は、健在だ。
 NBCの親会社、Comsat(CCZ)のCEO、ブライアン・ロバーツ(Brian Roberts)氏は、「我々の長期に渡る五輪の放送権獲得は、すべてのメディアの中で、最も最良の選択だ。五輪大会のコンテンツは、放送からスナップショットまで、膨大でかつ多様な視聴者を引き付けることができる。今、メディアを取り巻く環境が激しく変化をしている。その中で、五輪大会のコンテンツは実に、ほかに見当たらない実にユニークな存在だ」とし、NBC Broadcasting and Sportsの会長のマーク・ラザルス(Mark Lazarus)氏は、「我々はこの巨額の投資に楽観的だ」と語った。

 しかし、NBCの平昌冬季五輪中継では、スポンサーが最も関心を払う18歳から49歳の視聴率が2014ソチ冬季五輪に比べて、24%も減少していることが明らかになった。若者の“テレビ離れ”が急速に進んでいることが明らかになった。
 
 NBCは、こうした若者層の“テレビ離れ”を防ぐために、NBCOlympics.comとNBC Sports appを総動員して、合計1800時間という空前のデジタル・サービス戦略に乗り出した。スマートフォンやタブレットなどで、競技中継を見て、五輪に興味を持ってもらうという作戦だ。 
 もっとも、NBCのデジタル・サービスで、五輪コンテンツを視聴するためには、NBCグループのケーブルテレビや衛星放送、IPTVなどの契約者であることが条件で、誰でもアクセス可能なサービスではない。デジタル・サービス戦略は、テレビ視聴率の低下を防ぐ戦略と連動しているのである。
 しかし、その効果は果たしてどのくらいあるのか、まったく未知数である。

 NBCにとって最大の問題は、リオデジャネイロ夏季五輪から平昌冬季五輪と続いた視聴率低下傾向が、今後も更に加速する懸念が出始め、五輪の収益性に不安視する見方が出てきたことである。
 五輪放送の視聴率は、毎回、夏季五輪は冬季五輪より高いが、2016リオデジャネイロ五輪は低調に終始した。NBCはスポンサーに約束していた視聴率が獲得できなかったため、無償のボーナス広告枠をスポンサーに提供したと伝えられている。
今回の五輪放送に巨額のスポンサー料を支払った企業は、平昌冬季五輪の視聴率低迷にどのように反応するのだろうか。

 2020年東京都オリンピック・パラリンピックまで、後、2年余りになった。
NBCは今回の平昌冬季五輪で、テレビ、ケーブル、衛星放送、デジタル・プラットフォーム、ソーシャルメディア、あらゆるメディアを総動員して2400時間という空前の五輪コンテンツ・サービスを行った。NBCグループの総力を出し切った今回のオペレーションでも十分な成果は上がらなかったという印象が拭えない。
2020東京都オリンピック・パラリンピックで、NBCはさらに打つ手は残っているのだろうか。






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国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)





2018年3月3日
Copyright (C) 2018 IMSSR






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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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